考え方

選択的夫婦別姓について

この記事の内容は、実名でやっているfacebookに投稿したものをブログに再掲したものです。

最後にいただいた反応をまとめました。

初めに

選択的夫婦別姓制度が話題に上り始めて、数十年単位の月日が経つようです。
法務省(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html)によると、「平成3年から法制審議会民法部会(身分法小委員会)において、婚姻制度等の見直し審議が行われている」そう。
奇しくも平成3年は私の生まれ年。
これだけの月日が流れても、導入される気配がいっこうにないこの制度。
その原因の一端は、「制度に反対、賛成以前に、〈自分ごと〉として考えている人が少ないからでは?」と考えました。
そこで、「Facebookという意見を発信する個人が見えやすい媒体を使うことで、『自分が知っているあの人がなにかを言っている』というところから〈自分ごと〉と考えられる人をひとりでも増やす」ことを目的として、この投稿をします。
この目的に則り、この投稿は全体に公開にしています。直接の知り合いではない方には〈自分ごと〉と考えてもらう効果は薄いかもしれませんが、匿名の誰かの発言よりはひとりでも多くの人に届き、この問題について考えてもらうきっかけになればと幸いです。

元々の自分の考え

選択的夫婦別姓制度には、元から賛成でした。
だって「選択的」だし、当人同士が納得すれば誰にも迷惑かけない。
自分自身としては、戸籍上の名前は変えて、新しい姓はプライベートで利用し、実際の仕事上では生まれの姓を利用しようと思っていました。
私の生まれの姓は画数が多く、画数減るなら戸籍上の名前は変えてもいいかなと軽く考えていました。

姓が変わる立場の考えが〈自分ごと〉になった瞬間

入籍することになってから、改姓に関わる様々な手続きで何をしないといけないのか調べました。
銀行は確実に旧姓利用できないことがわかった。
となると、いまお世話になっているところ全部(大学院に行きながら、フリーで通訳してます)に口座名義人変更の連絡出さなきゃ。
そもそもお世話になっているところは旧姓利用いけるのか?
…それに、今は仮にお世話になっているところは全て旧姓利用が認められたとしても、これから先も旧姓利用を認めてもらえるところばかりという確証はどこにもない…!
ここまで考えて、やっと戸籍名を変えた上での旧姓利用がいかに大変かがわかりました。
そして、自分の考え方の甘さを痛感するとともに、初めて姓が変わる立場の考えとこの選択的夫婦別姓制度の是非が〈自分ごと〉になりました。
ちなみに一箇所、旧姓利用認めませんって言われてしまった。

姓が変わらない立場の気持ちが〈自分ごと〉になった瞬間

生まれの姓と新姓の使い分けが、自分が考えていたようにはどうもできないと気づいてから、入籍の数ヶ月前にパートナーに「使い分けが思うようにできない、手続きが面倒」という話をしました。
元々自分が戸籍上の名前を変えること自体に抵抗はなかったのを知っていたのもあり、パートナーを驚かせてしまい、すごく傷つけてしまいました。
自分としては姓が変わることになって初めて問題に気づいたので、姓を変えるにあたっての困難を知ってもらい、話し合った上で私のほうが変えるという結論に至りたいという気持ちがありました。
けれど、話したいのに、話せば傷つけてしまう。驚くのはわかるけど、なんで傷つけてしまうんだろう。
初めは「なんでこっちはこんなに苦しんでいるのに、まともに聞いてくれないの?」と怒りと悲しみしか感じませんでした。
そんなやりとりを複数回したり、実際に自分のパートナーと姓の選択について話したことがある人の経験を聞いたりして、あるとき、「パートナーからしたら、自分の姓ひいては自分を否定されたように感じるのでは?」と気づきました。
生まれてからずっと一緒に過ごしてきた姓。
成長するにつれ姓で呼ばれることが多くなる日本社会では、姓は自分を表す記号として機能します。
骨身に染み付いているからこそ、「姓を変えたくない」が「あなたの姓になるのが嫌だ」ひいては「あなたが嫌だ」と言われたと感情が先に結びつけてしまうのも想像しうることです。
パートナーを何度となく傷つけてしまったことを申し訳なく思うとともに、姓が変わらない立場の気持ちが〈自分ごと〉に近づけることができた気がした瞬間でした。

姓を変えたくないけど変える女性の気持ちが〈自分ごと〉になった瞬間

ここでもう一度、前の項「姓が変わらない立場の気持ちが〈自分ごと〉になった瞬間」と「姓を変えたくないけど変える女性の気持ちが〈自分ごと〉になった瞬間」を読んでください。
これら2つの立場は、男性でも女性でもなりうる立場です。そのため、性別がその語義に含まれる語を極力排除して書きました。
それでもおそらく多くの人は、前者として女性を、後者として男性を想定して読んだと思います。
投稿者の名前が女性のものだったからいう人もいるかもしれませんが、もし匿名の投稿だったとしたら前の2項にそれぞれ女性と男性を想定せずに読めたと自信を持って言えるでしょうか?
自分の中の固定観念というものは、思った以上に強いです。
入籍することになり、両親や知人に報告しました。
両親はもちろん、知人からも、だいたい私が姓を変える前提で話をされました。
「名前はどうするの?」と聞かれたことはほとんどなく、「新しい名前は何になるの?」と聞かれるのです。
法律上、夫婦は「夫又は妻の氏を称する」ことと定められており、夫か妻の姓であればどちらに統一してもいいのに、実際には大半の場合女性側が改姓します。
思っていた以上に「結婚したら女性が姓を変えるものだ」という世間の固定観念が強く、この社会で男性が改姓するハードルは、女性以上に高そうだと感じました。
実際、男性側が改姓して入籍しようとしたら、親の反対にあってしまい入籍自体を諦めざるを得なかったという話を何度か聞いたことがあります。
多くの男性は当たり前のように自分の姓を選べるのに、女性が自分の姓を選ぼうとすると相手と法律婚することも諦めないといけないのは理解に苦しむのですが、法律婚したかったら女性のほうが改姓することを強いられることが多いのが現実です。
姓は変えたくなくても、パートナーに変えてもらうのはかなり大変そう。
下手するとパートナーと一緒にいることを諦めないといけないかもしれない。
そう思ったら、女性側が変えざるを得ないとなってしまうなと感じました。

事実婚について

いわゆる事実婚も自分の中で一瞬考えました。
事実婚の形態もいろいろあるようですが、役所で手続きして、お互いに対して「夫(未届)」「妻(未届)」という続柄になれば、法律婚でたまに言われる「けじめ」や「区切り」のような機能は十分果たせます。
ただ、事実婚だとどうしても法律上の立場、緊急時の立場が弱くなってしまいます。
入籍前に一度、パートナーが高熱を出し、手足が痺れて変な方向に曲がっていて、たまらず救急車を呼んだことがあります。
わかってはいましたが、「手術などの緊急時にはあなたでは何も力になれないので、(相手の)親御さんの連絡先を教えてください」と言われました。
大切な人を一番支えたいときに支えられない、一番支えてほしいときに支えてもらえないかもしれないという不安を抱きながら事実婚を選ぶことは、私にはできませんでした。
ただ、今だったらそれほど生まれの姓での業績・キャリアもあまりなかったのでいいですが、入籍の話が持ち上がるのが10年後だったら、もしかしたら生まれの姓のままでいさせてほしいと懇願していたかもしれません。
日本には、様々な理由から法律婚ではない形でパートナーシップを築いている人たちがいます。
固定観念、法律的立場の弱さなど、障害がありながらも、事実婚を選ぶのは、法律婚を選ぶことよりも困難が伴うかもしれません。
それでもお互いのことを尊重して出した結論であって、自分自身としては尊敬するとともに、1日も早く選択的夫婦別姓制度が導入されて別姓を選べないから仕方なく事実婚を選んでいる人たちが安心できる社会になってほしいし、していくべきと考えています。
選択的夫婦別姓制度が導入されることで全てのカップルが直ちに救われるわけではないですが、救われる人々がいるのも事実です。

今、何ができる?

今、私たちにすぐできることは、この問題に関わるあらゆる立場を〈自分ごと〉として考えることです。
自分自身、元々は自分ごとと考えられていなかったからこそ「迷惑かけるわけじゃないしいいんじゃん?」くらいの気持ちで選択的夫婦別姓制度に賛成でした。賛成というか、容認くらいが正確ですね。
この問題のあらゆる立場を<自分ごと>として考える人が増えることで、導入に向けた議論が進むと信じています。
法律婚を検討する当事者となる場合は、よくパートナーと話し合うのも、今からできることのひとつです。
いつになったら別姓が認められるのかわからない現状、法律婚するにはふたりで一方の姓を名乗る必要があります。
どちらかは改姓に伴う煩雑な手続きを一人でやり、今まで名乗っていた自分の名前を自分の手で消していくという言いようのない虚無感に襲われる作業と戦わないといけません。
ふたりで支え合って生きていこうと誓い合った矢先に、片方だけ大きな負担を強いられるのです。
ボタンをポチッと押すようにサクッと改姓手続きが終わるのであればまた話は違うのでしょうが、手続きには時間もお金も地味にかかるので、思っていた以上にじわじわ精神を蝕んできます。
特に、入籍直前は「手続き自体は生まれの姓でせざるを得ないけど、そのあとすぐに改姓手続きを取らないといけない」シーンが頻発して、「お手数おかけします。申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」って何度も言わなきゃいけないのがかなりつらかった。
そもそも法律婚するのか、法律婚するならどちらが姓を変えるのか、パートナーとよく話し合った結果、自分は姓を変えないことになった人は、パートナーの改姓に伴う時間的・金銭的・精神的負担を理解してあげてください。
美味しいものでも奢って、その苦労をねぎらってあげてください。
これだけでも改姓に伴う精神的負担はだいぶ軽くなると思います。
パートナーに泣いて喚いて愚痴聞いてもらって、いつもは行かないレストランで美味しいもの食べさせてもらったら、「仕方ない、頑張る」って思えるようになったから効果はある。

終わりに

改姓したタイミングでこの投稿をしたのには、改姓したときに感じた負担をなるべく忘れずに、この問題を〈自分ごと〉としてとらえ続けられるようにするためでもあります。
戸籍名で生まれの姓が使えず、自分が考えているように使い分けができない以上、旧姓利用が許されている場所でも思ってもみなかったタイミングで別の負担が増えることが予想されます。
どうせ銀行口座の名義人を変更しないといけないなら、そのタイミングで各所で改姓手続きをしてしまったほうが、後々に負担を引きずらずにすみます。
ただ、負担を後に残さないが故に、これだけ苦しんだことを綺麗さっぱり忘れてしまうかもしれません。せっかくこの問題を〈自分ごと〉と考えられるようになったのに、忘れてしまったら意味がありません。
忘れないために、改姓前から文章を書き始め、折に触れて読み返したり書き加えたりしてきました。
「研究者やフリーランスの改姓は割と本気で死活問題なの皆さん分かってます???」とか、
「今でも国際結婚の場合は夫婦別姓でいけるんだから、なんでさっさと選択的夫婦別姓制度を全面導入しないの日本政府???」とか、
「結婚したら男も女も元の戸籍を抜けて新しい戸籍を作るわけだから、女が男の家のものになるわけでもないし、男が女の家のものになるわけでもないし、そもそも人を所有物的に考えるのは前時代的だから早く時代に追いつこう?同姓が強制されるの、日本くらいだよ???」とか、
「夫婦同姓が義務付けられたの、たかが明治以降の新しいことなのに、苦しむ人がいるなかを伝統伝統と言い張って頑なに守る必要あります???」とか、
「てか旧姓って何やねん生まれの姓も正真正銘自分の名前やぞ」とか、
その他実際の手続きでイラッとしたこととか、まー言いたいことはたくさんあるけど、長くなってしまったのでそれらは各自〈自分ごと〉として調べて考えてみてください!

あと、最後に一番大事なこと!
私の個別事象を取り上げると「パートナー酷い人!」みたいに事実と異なる解釈をする人がいるかもしれませんが、男性の転勤に女性がついていくことはあってもその逆はあまりない風潮の日本社会にありながら、「彼氏がついていくより、旦那がついていくほうがいいでしょ?」とさらっと言ってのけてプロポーズしてくれた人であることは強調の上付け加えておきます。
私がお弁当が必要な日、私はまだ寝てるうちからお弁当作ってくれるし、私には勿体無いくらい良い人です。

いただいた反応

  • 女性側だけが「なにさんになるの?」と聞かれるもやもや感、多くの人が感じてる
  • 悪いことしてないのに手続きだなんだとお金とられる
  • 女性側が改姓すると口座やカード類資格など手続きするものが圧倒的に多く、負担が大きい場合でも女性だからという理由で改正せざるを得なかった
  • 相手の親戚との関係を考えると強く言えなかった
  • 身近な男の人が結婚することになったら、姓の選択について話を振ってみると選択的夫婦別姓の話に発展することもある!
  • パスポート、「戸籍姓(旧姓)名前」の表記にできるよ!

いただいた反応、首がもげるかってくらい同意しながら読みました。

私がどうして何度も選択的夫婦別姓制度の導入を求める声をあげるのかというと、世の中を変えたいから。

思った以上に姓が変わることに伴ういろんな面の苦痛が知られていない。

知られていない現状、制度導入の是非を議論する段階にも立てていない。

けど、こうやって声を上げ続けたら、いつかそれが世の中をかえる大きな流れに繋がっていくかもしれない。

パスポートに旧姓が併記できるようになったのも、先人たちが声を上げ戦ってきてくれたからです。

私はどうしても併記という形を取りたくなかったのでこの方法は使えませんでしたが、声を上げ世の中が変わった一例です。

声を上げ、無関心な人たちに問題提起し続けて気づいてもらうことで、少しずつ世の中が変わっていくと信じています。

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